Mono Works

チラシのすきま

フルワイヤレスイヤホンに関するメモ

気温も上がり軽装になったこどだし、そろそろフルワイヤレスイヤホンに手を出してみようと思い、Bluetoothとかその辺について下調べしてみた。

NUARL NT01AX を Fiio M6 で試聴

まずは、フルワイヤレスイヤホンに限らず、音声出力機器(スマートフォン、メディアプレーヤー等)と再生機器(ワイヤレスイヤホン等)を選択する上で気になる「Bluetoothの規格」や「コーデック」についてのメモ。

Bluetoothの対応プロファイル

Bluetoothでは、その用途ごとにプロファイルと呼ぶ仕様が定義されている。どのプロファイルに対応しているかによって、そのBluetooth機器で利用できる「機能」が決まる。ワイヤレスイヤホンに関して言えば、だいたい下記4つのプロファイルに対応していている。

  • A2DP:音声信号を高品質に伝送するためのプロファイル
  • AVRCP:オーディオ機器をリモコン制御するためのプロファイル
  • HSP:通話中の音声(モノラル)信号をヘッドセットに伝送するためのプロファイル
  • HFP:ハンズフリーで音声(モノラル)通話をおこなうためのプロファイル

どれも基本的なプロファイルで、Bluetoothを搭載した今どきのスマートフォン、メディアプレーヤーであれば大概対応しているので、最近は「どのプロファイルに対応しているか」を意識しなくても大丈夫っぽい。

Bluetoothのバージョン

Bluetoothの変遷について、ざっくりと

Bluetooth 1.1から2.1

Bluetooth 1.1で音楽再生用のプロファイル「A2DP」が定義され、バージョン2.0で従来の通信規格であるBR(Basic Rate:1Mbps)に加えて、拡張通信規格EDR(Enhanced Data Rate:2Mbps/3Mbps)が追加される。さらに、バージョン2.1では、ペアリングの簡略化(PIN入力不要、NFC対応)が追加され、「Bluetooth 2.1+EDR」として普及するようになる。

Bluetooth 3.0

バージョン3では、さらに高速なHS(High Speed:24Mbps)が追加され、電力管理機能の強化と合わせて「Bluetooth 3.0+HS」が策定される。ただし、HS(High Speed:24Mbps)の高速通信は、無線LAN規格IEEE 802.11のMAC/PHY層を利用することで成立する規格であり、HS対応の「BluetoothとWi-Fiのコンボチップ」は存在するもののIEEE 802.11のMAC/PHY層はWi-Fiが利用しているため、実際には「HS(High Speed:24Mbps)」を利用できる製品はほとんどない(だいたいなかったことになってる)。

Bluetooth 4以降

バージョン4では、通信速度よりも消費電力低減を重視した規格LE(Low Energy)が策定される。従来の規格とは仕様が大きく異なるため、Bluetooth 4は、従来の「Bluetooth(BR/EDR)」に新しい通信モードとして「Bluetooth(LE)」を追加する形となった。バージョン5も、改訂はLE部分のみであり、従来の「Bluetooth(BR/EDR)」モードに変更はない。

Bluetoothのバージョンと音楽再生の関係

音楽再生プロファイルの「A2DP」は、「Bluetooth(BR/EDR)」向けのプロファイルであるため、音声出力機器と再生機器がBluetooth 4/5対応であっても「音質」面での影響はない。ただし、Bluetooth 4/5対応によってオーディオ再生がより快適に利用できる場合がある。例えば、Bluetoothイヤホンのバッテリー残量をスマートフォンにアイコン表示する機能がある。これは「Bluetooth(LE)」で追加されたBAS(Battery Service)プロファイルの機能を利用したもの。また、Bluetoothはバージョンが上がるごとに省電力機能が強化されているので、「音声品質」に関してはバージョンを気にする必要はないけど、あれば新しい方を買っておけくらいな感じか。

アナログ音声のデジタル化について

音声圧縮技術について語る前に、アナログ音声信号をデジタル信号に変換する処理である信号の標本化(サンプリング)、信号の量子化、信号の符号化(エンコード)について書いておく。

信号の標本化(サンプリング)

音声波形のアナログ信号から一定の時間間隔で信号を抽出する(時間方向に飛び飛びの値をとる)ことを標本化(サンプリング)と呼ぶ。このサンプリング間隔(周期)が短いほど、アナログ信号の波形を再現しやすくなるが、データ量は大きくなる。

音楽CDの記録方式では、人の可聴域(20Hz~20kHz程度)をカバーすることを考慮して、サンプリング周波数が44.1kHz(1秒間の音声信号を44,100個に分割)と定められている。これは、原波形に含まれる周波数の帯域幅に対して、その2倍以上高い周波数(原波形周期の1/2より小さい周期)で標本化(サンプリング)すれば元の波形に再構成されるという「標本化定理」に基づいて決められたそうだ。

信号の量子化

標本化が時間(横軸)方向にデータを分割するのに対して、量子化は、一定の時間間隔で抽出した信号を振幅(縦軸)方向に段階分けした上で、もっとも近い段階の数値に置き換えるものである。

音楽CDの記録方式では、量子化ビット数を16bitとして、振幅を65,536(2の16乗)段階に分割し、もっとも近い基準値に合わせて数値化している。この段階を細かく分割(量子化ビット数を大きく)するほど元の波形に近くなるが、データ量は大きくなる。

信号の符号化(エンコード)とコーデック

標本化と量子化により数値化した音声信号を電気的に伝送するためには、デジタルデータ(0と1の2進数)に変換する必要がある。数値化した音声信号を、後から元の(あるいは類似の)音声信号に戻せるように一定の規則に従ってデジタルデータに変換することを符号化(エンコード)と呼ぶ。また、同じ規則に則ってデジタルデータを元の音声信号に戻すことを復号(デコード)と呼ぶ。こういったエンコード/デコードをおこなうための装置やソフトウェアをコーデックと呼んでいる。

音声用のコーデックのうち、サンプリングごとに量子化されたデータを並べて、そのまま(無圧縮で)2進数に置き換える方式をLPCM(Linear Pulse Code Modulation)という。LPCMは、計算機による処理を行いやすいというメリットがあるが、無圧縮であるためデータサイズ/トラフィック量が大きくなる。

例えば、ステレオ録音された市販の音楽CD(44.1kHz/16bit LPCM)の場合、ステレオ 2(ch)×44,100(サンプリング/sec)×16(bit)=1,411.2Kbpsのビットレートで記録されているので、Bluetooth(BR/EDR)の実行速度で安定して音声データを飛ばすには、データの圧縮が必要となる。そこで、「データの圧縮/伸張」機能をもつ音声圧縮コーデックを利用してエンコード/デコードをおこなうことになる。

Ver. 通信規格 変調方式 Bit rate 非対称型通信時 最大実効速度 対称型通信時 最大実効速度
1.0 BR GFSK 1Mbps 下り723.2kbps/上り57.6kbps 433.9kbps
2.0 EDR Pi/4-DQPSK 2Mbps 下り1448.5kbps/上り115.2kbps 869.1kbps
2.0 EDR 8DPSK 3Mbps 下り2178.1kbps/上り177.1kbps 1306.9kbps

最大実効速度は、電波環境の良い場所で実現できる最大のビットレートであり、屋外とくに同様の通信機器が多く使われているような場所での実行速度はかなり下がってしまう。

音声圧縮コーデック

A2DPプロファイルに対応する主な音声圧縮コーデックは、下表のものがある。

コーデック名 位置付け ビットレート 遅延
SBC 標準(必須)規格 328kbps/345kbps 220ms(±50ms)
AAC Apple 推進 平均256kbpsの可変 800ms(±200ms)
LDAC SONY 推進 330/660/990kbps 非公表
aptX Qualcomm 推進 基本 352kbps/384kbps 70ms(±10ms)
aptX HD Qualcomm 推進 高音質 576kbps 非公表
aptX LL Qualcomm 推進 低遅延 非公表 40ms未満
aptX Adaptive Qualcomm 推進 新技術 276kbps~420kbpsの可変 50~80ms

A2DPでは、音声圧縮コーデックについて「SBCの実装が必須」であること以外は、ベンダーが自由に規定してよいことになっているので、個々の製品ごとに採用するコーデックがまちまちといった状態である。このように対応コーデックがバラバラな製品どうしをペアリングした際に、Bluetoothでは、「両製品が対応しているコーデックの中から一番高品質なもの」を自動的に選択(※)するようになっている。最低限SBCでデータ通信できるので、ユーザーは対応コーデックについてあまり悩む必要はない。ただし、コーデックごとに得意/不得意があるので、こだわりのある使い方をしたい場合には、音声出力機器と再生機器がどのコーデックに対応しているのか確認してみるとよい。※ 再生機機の中には接続時に手動でコーデックを選択できるものもある。

以下、これらの音声圧縮コーデックについて、その特徴を書き留めておく。

SBC(SubBand Codec)

SBCは、A2DPプロファイルの標準(必須)コーデックであり、フィルターをかけて音声データを複数の周波数領域(SubBand)に分割し、サブバンドごとに最適化したビット配分でエンコードする方式。SBCでは、音声出力機器と再生機器がペアリングする際にお互いの能力(Bitpool値)をやり取りして、より能力の低い方に合わせてビットレートを決定する。

A2DP製品の黎明期には、低い能力(Bitpool=32、192kbps)の機器が多かったことから「Bluetooth接続のイヤホンは音がひどい」というイメージが付き、さらに動画鑑賞では映像と音のずれが気になるレベルであったことから、当初Buletoothイヤホンに対するイメージはかなり悪かった。

現在販売されている製品は能力の高い(Bitpool=53/51)ものが多くなり、他のコーデックに引けを取らないビットレート(328/345kbps)で通信できるため、音質面でのマイナスイメージは小さくなっている。

SBCエンコード設定(Join Streoの場合) 中品位 中品位 高品位 高品位
サンプリング周波数(kHz) 44.1 48 44.1 48
Bitpool値 35 33 53 51
採用されるフレーム長(bytes) 83 79 119 115
採用されるビットレート(kbps) 229 237 328 345

AAC(Advanced Audio Coding)

AACは、MP3を超える圧縮率を目指して策定された音声圧縮コーデックであり、iOS機器では実質的に標準の音声圧縮コーデックとして採用されている。

Bluetoothに関する情報は非公開となっているが、JAS Journal 2015 Vol.55 No.1の記事によると、AACには「128kbpsの固定ビットレートで遅延120ms(±30ms)のAAC CBR」と「平均256kbpsの可変ビットレートで遅延800ms(±200ms)のAAC VBR」の2つがあり、昔のiPhoneにはAAC CBRが採用され、最近のiPhoneにはAAC VBRが採用されているそうだ。規格上は遅延が800ms(±200ms)とかなり大きいにもかかわらず、実際には数値ほど「画面と音のずれ」を感じることがないのは、ソフトウェア的に映像を遅らせる調整が入っているとか。

aptX

aptXは、現在、Qualcommがライセンスを保有している技術である。その音声データ圧縮率は25%(一般的な音楽CDの場合、1,411.2Kbpsの25%= 352kbps)であり、SBCやAACと同程度のビットレートとなっている。それにも関わらず、aptXは、SBCやAACと比べて「高音質」「低遅延」を実現し、今では多くの機器で採用されている。

ヒトの聴覚には、以下のような音(周波数)が聞こえにくいという特性がある。SBCやAACでは、こういった聞こえにくくなっている音を削除することで、データ量の削減(音声圧縮)をおこなっている。

  • 低音域と高音域は感度が低い
  • ある周波数帯の音が大きいとその周辺の周波数帯の小さな音は聞こえにくい(周波数マスキング)
  • 大きな音の直後の音は聞こえにくい(時間マスキング)

これに対して、aptXでは、ADPCM原理(※)を利用して「SBCやAACのようなデータ削除をおこなうことなく」音声圧縮することで、高音質な音楽再生を実現している。※ 自然発生した音の多くが連続的に変化していることを利用して、過去の音声データの変化から次の音声データを予測し、予測データとの差分を格納することで格納するデータ量を小さくするというもの

また、SBC、AACは、フレーム単位でコーデックをおこなっているので、再生機器側にフレーム中のデータが完全に揃うまでデコードが始まらない。aptXは、サンプル単位でコーデックをおこなっているので、再生機器側にサンプルデータが到達次第、デコードが始まる。こういった仕組みでaptXは、70ms(±10ms)という低遅延を実現している。

aptX HD(High Definition)

aptX、SBC、AACといったコーデックが対応できるデータ量は、実用上「2ch 48kHz/16bit=1,536kbps」までとなっており、いわゆる「ハイレゾ音源」には対応していない。そこで、新しい音声圧縮コーデックとして、aptX HDやLDACなどが開発された。

aptX HDでは、ハイレゾ規定の下限(2ch 48kHz/24bit=2,304kbps)まで拡張をおこなっている。圧縮率は、aptX同様25%であり、2ch 48kHz/24bitのハイレゾ音源の場合、ビットレートは、2(ch)×48,000(サンプリング/sec)×24(bit)×0.25=576Kbpsとなる。遅延については非公表とされているが、aptX比でビットレートが1.5倍になっているので、遅延も1.5倍程度と想定される。

LDAC

LDACは、SONYが開発した技術である。LDACも「SBCやAACのようなデータ削除をおこなうことなく」音声圧縮をおこなっており、その特長として、周波数帯によって量子化の密度を変更している点にある。具体的には「中低域のここからここまでは情報量が多いので24bitで」、「それより高音のここからここまではそれほど情報量が多くないので16bitで」、「人間の可聴域を超えるとされる音域はさらに小さいビット数で」といった具合に、それぞれの音源を動的に解析しながら最適な量子化をおこなっている。当然、他の手法に比べ、デジタルデータ化にかかる負荷は高い。

LDACでは、「2ch 96kHz/24bit=4,608kbps」まで対応しており、通信環境の良し悪しによって、330/660/990kbpsという3つの伝送速度が用意されている。なお、最も早い990kbpsは、Bluetoothの実質的な上限速度(1Mbps程度)に近いことから、室内など通信環境の良い場所での利用に限定される。

遅延については非公表とされているが、aptX HDよりも最適化にかかる負荷がかかることから遅延も大きく、動画視聴などには向いていない。

aptX/aptX HD、LDACのライセンス

aptX/aptX HD、LDACは、そのエンコーダ部分がAOSP(Android Open Source Project)に寄贈され、Android OS 8以降、標準搭載となった。これより、ベンダーはAndroid端末に無料でaptX/aptX HD、LDACを採用することができる。ただし、再生機器(デコーダ)側のライセンスは有償なので、ワイヤレスイヤホンなどのベンダーはaptX/aptX HD、LDACを利用する場合、それぞれQualcomm、SONYとライセンス契約を結ぶ必要がある。

aptX LL(Low Latency)

aptX LLは、規格名から分かるように低遅延(40ms未満)を特長とする技術である。ただし、この低遅延を実現するために特殊な実装がおこなわれているようで対応機器は少ない。限定的な利用となるが、ゲームなど遅延にシビアなコンテンツでは有用な技術である。

aptX Adaptive

aptX Adaptiveは、2018年に発表された新コーデックである。そのエンコーダー部分がAndroid 9.0 Pie向けに提供され、音声出力機器として「Snapdragon 855シリーズを搭載するスマートフォン」にオプション機能としてaptX Adaptiveを採用可能となっている。再生機器向けには、aptX Adaptive対応のデコーダーチップ「QCC5100」「CSRA68100/68105」が提供されており、今後、対応製品の発売が待たれる。

従来のaptXではビットレートが固定であったため、通信環境が悪いと音途切れやノイズ発生がおこっていた。これに対して、aptX Adaptiveでは、通信環境の良し悪しやデータ量に応じて、データ転送時のビットレートを280kbpsから420kbpsの間で可変させながら伝送する特長をもつ。初期スペックでは最大48kHz/24bitまでの音源に対応しているが、将来的には同規格をブラッシュアップして96kHz/24bitへの対応も考えられている。

aptX Adaptiveを利用するのにSnapdragon 855シリーズの搭載は必須とされていないが、記者発表時には、以下のようなコメントがあった。

Snapdragon 855シリーズ搭載のスマートフォンでは、ユーザーがどのようなコンテンツを再生しているか、リアルタイムに判別しながらaptX Adaptiveの接続状態を最適化する。例えば、遅延にシビアなゲームコンテンツを検知した場合はビットレートを下げて、遅延の短縮を優先する。

音声圧縮コーデックと音楽再生

Bluetooth接続のイヤホンについては、対応しているコーデックは多いに越したことはないくらいの感じで、LDACとaptX LLについては通信環境の良い場所でないと本領が発揮されないので、目的に応じてこだわっていけばいいと思う。

また、QualcommとAppleが訴訟合戦をおこなっていたため、iOS端末で音楽を楽しむ場合、現状ではAAC対応の再生機器一択だった。ところが、先日QualcommとApple間の訴訟について取り下げ合意がなされたことで、今後はApple製品にもQualcommチップが搭載されたり、aptXシリーズに対応するかもしれない。

なお、aptX HD、LDACに関しては左右に独立したイヤホン間でデータ通信できない仕様のため、フルワイヤレスイヤホンに採用された製品はない。ただし、後述するTWS Plusが実装されればL-R間の通信がなくなるので、状況が変わる可能性はある。フルワイヤレスイヤホンの場合、当面は、aptXとAACに対応したものを選択し、必要であればaptX LL対応のもの、将来的にaptX Adaptiveに対応したものが出てくればといった感じか。

音声データの伝送方式

ここまでは「Bluetooth接続のワイヤレスイヤホン(ヘッドホン)全体」に関係する情報を整理してきたが、ここからは「左右のイヤホンが完全に独立したフルワイヤレスイヤホン」ならではの課題について注目していく。

フルワイヤレスイヤホンは左右独立した構造のため、音声データをどういった経路あるいは方法で伝送するのかが製品ごとに異なっている。現在の主流はQualcommのTWS(Truewireless Streo)技術もしくはTWSと同様の方式を採用した製品であり、より高品位な接続性を獲得するためNXPのNFMI(MiGLO)技術を採用した製品がちらほら販売されているといった状況である。そして、今後は新しい技術としてTWS Plus(Truewireless Streo Plus)に対応したフルワイヤレスイヤホンが増えてくると予想される。

TWS(Truewireless Streo)

Bluetoothの仕様では、音声出力機器(スマートフォンやミュージックプレーヤー)と再生機器(ワイヤレスイヤホン)は、「1対1でペアリング」をおこなうことになっている。このため、フルワイヤレスイヤホンでは、音声出力機器が出力した「ステレオ音声データ(L+R)」をいったん「L側イヤホン」が受信して、その後「L側イヤホン」から「R側イヤホン」へ「モノラル音声データ(R)のみ」を受け渡すといった経路(左右逆のものもある)で音声データが伝送されている。

ここで問題となるのは、人間の体が血液をはじめ多くの水分で構成されているということ。電波は水分に吸収されやすいため、L-R間の最短ルートである頭の中を電波は直進することができない。そこで、頭の外周を迂回するルートでL-R間の通信をおこなうことになる。Qualcommでは、このように音声データを「音声出力機器 → L側イヤホン →(頭の外周迂回)→ R側イヤホン」といった経路で伝送する技術をTWS(Truewireless Streo)と呼んでいる。

このタイプのフルワイヤレスイヤホンでは、Bluetoothによるデータの受け渡しが2段階になっていることから、途切れやすさも2倍になっている。さらに、L-R間のBluetooth接続については、頭の外周を迂回しなければならないという課題も抱えている。これらを解決するため、ベンダーは電波の出力を調整したり、アンテナ形状を工夫するなど、Bluetoothの設計をブラッシュアップすることで接続安定性を実現している。このあたりの進化は目ざましく、現在販売されているフルワイヤレスイヤホンの多くで、高い接続安定性が確保されている。

NFMI(MiGLO)

一部のフルワイヤレスイヤホンでは、「L-R間の通信」にBluetooth(電波通信)を利用せずに、NFMI(近距離磁気誘導)という磁力による通信技術を採用したものがある。NFMIは、もともと両耳装着の補聴器向けにNXP Semiconductors(以下、NXP)が開発した技術で、左右の補聴器に搭載したコイルの間に電磁誘導を相互に発生させ磁力による通信をおこなうものだ。磁力は水中でも伝送されるので、頭の中を直進し、途切れにくく低遅延な通信が可能となっている。このNFMI技術がフルワイヤレスイヤホンに適しているということで、NXPはMiGLOという商標でフルワイヤレスイヤホン向けSoCを出荷している。

NFMI(MiGLO)の磁気による通信は、左右コイル間の距離や向き、コイルの巻き数、コイルに磁界を発生させるための電流の量などがきちんとチューニングされることで、高い接続安定性を発揮する。裏を返せば、NFMI(MiGLO)を採用していたとしても、チューニングがまずければ、その真価が発揮されないという製品設計の難しさもある。実際、NFMI採用を謳った製品の中には、???となる製品があるらしい。”ワイヤレス イヤホン nfmi” をキーワードにして検索すると、NFMI技術を採用したフルワイヤレスイヤホンがいくつか見つかる。

TWS Plus(Truewireless Streo Plus)

A2DPによる音楽再生については、TWS技術の向上により接続性が高くなったとはいえ、やはり「L-R間の通信」が一番のネックであることに変わりはない。これを根本から解決しようというのが、Qualcommの新技術TWS Plus(Truewireless Streo Plus)だ。

TWS Plusを簡単に説明すると、音声出力機器側であらかじめ「2chのステレオ音声(L+R)」を「モノラル音声(L)」と「モノラル音声(R)」の2つに分割して、それぞれ1対1で「モノラル音声(L)→ L側イヤホン」と「モノラル音声(R)→ R側イヤホン」という経路で伝送するもの。こういった仕組みでTWS Plus技術は、L-R間の迂回ルート問題を解決している。さらに、左右のイヤホンにそれぞれ1ch分のデータを伝送すればよく、使用帯域が半分程度で済むことも通信安定性の向上に繋がっている。

当然だが、TWS Plusを利用するには、音声出力機器とフルワイヤレスイヤホンの両方がTWS Plusに対応している必要がある。音声出力機器は「SoCにSnapdragon 845/855を搭載」かつ「TWS Plus機能が有効」になっている必要があり、フルワイヤレスイヤホンは「SoCにQCC5100シリーズ又はQCC3020/3026」を搭載している必要がある。

音声出力機器に関しては、これまでSnapdragon 845を搭載したAndroidスマートフォンはいくつか販売されているが、TWS Plus機能が有効になったものはなかった。最近になって、Snapdragon 855を搭載したXperia 1のレビュー記事の中で「国内メーカー初のTWS Plus対応スマートフォン」として紹介されているのを見つけた。ただし、Xperia 1に関してSONY公式サイト或いは販売キャリアのスペック表/製品紹介などを確認してみたが、本記事執筆時点で「TWS Plus機能」に関する記述は見つからなかった。

また、先のレビュー記事で、Xperia 1の試作機とフルワイヤレスイヤホンのAVIOT TE-D01d(QCC3026搭載)によるTWS Plus機能の検証がおこなわれていたので、AVIOT公式サイトを確認してみた。製品ページに「TWS Plus機能が有効」になっているかどうかの記載はなかったが、チップセットのQCC3026/3020に関する説明ページにTWS Plus機能について記載がある。

なお、TWS Plus方式で接続することのメリットは通信安定性の向上だけでなく、左右イヤホンのバッテリーが均等に消費され、結果として連続再生時間が倍近くになるという利点もある。

これに対して、従来のTWS方式では、マスターとなるL側イヤホンの方がバッテリーの消耗が早く、L側のバッテリが無くなるとR側のバッテリが残っていても両方使えなくなるものが多かった。ただし、最近のフルワイヤレスイヤホンの中には、「バッテリーの減りによって適宜マスターとスレーブを切り替えことで左右イヤホンのバッテリーの減りを均等にするロールスワッピング機能」を搭載した機種がある。この機能を搭載したフルワイヤレスイヤホンは、従来のTWS方式にもかかわらず、機能非搭載のものに比べて2倍近い再生時間となっている。ロールスワッピング機能を採用しているかどうかは、製品ページに書かれていない場合、説明書などに「親機/子機の切り替え」という感じで説明されていることがある。

W1チップ

最後に、AppleのAirPodsについて触れておく。ご多分に漏れずAirPodsもほとんどの情報は非公開なので噂の域を出ないが、AirPodsに搭載されているW1チップにはTWS Plus相当の機能が実装されているらしく、これにより安定した音声品質と長い再生時間が実現できているそうだ。というわけで、iOS端末を利用していて、音の好みや装着感が合うのであれば、AirPodsにしておけば満足感は高いと思う。先に書いたように、今後はApple製品にもQualcommチップが搭載されたり、aptXシリーズに対応するかもしれないので、その辺は動向次第ということで。

フルワイヤレスイヤホンどれを買うか

前置きが長くなったが、現時点ではTWS Plusに対応したものを買っておけば、フルワイヤレスイヤホンの音質面で不利になる要素はないと思う。

自分の場合

この細耳に装着可能かどうかを試着して確認するので、この時点でかなりの製品がふるい落とされる。製品仕様と細耳へのフィット感から、AVIOT TE-D01dNUARL NT01AXが候補に残り、最終的にはFiio M6と接続して試聴をおこない、音質の好みでNUARL NT01AXに決定した。いちおうNT01AXの製品ページを確認すると、「よくあるご質問(2019.5.23更新)」に「TWS PLUS接続使用時の注意」というFAQがあるので、TWS Plusには対応しているのだろう。また、自分の細耳にはどうがんばってもハマらなかったけど、ZERO AUDIO True Wireless ZeroもTWS Plus対応を謳っている。

イヤーピースも試着させてもらい、右耳用にfinal EタイプのSサイズと左耳用にSpinFit CP100ZのSSサイズを購入。微妙なサイズや形状の違いでフィット感と音の聴こえ方が全然違うので、試着させてもらって本当によかった。

今回は、e☆イヤホンの秋葉原店でイヤホン、イヤーピースの試聴/試着をさせてもらった。ほとんどの商品が試聴/試着可能なので大変有難い。あと、フルワイヤレスイヤホン用にイヤーピースを購入する場合、充電ケースに納まるかどうかの確認も重要。イヤーピースのサイズが大きいと充電ケースに納まらず、充電できないことがあるそうだ。

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